病死した母の収骨を終えた日、小学五年生の我茂凰介は、火葬場で不思議な幻覚にとらわれた。
明るい部屋、視界を遮る格子、ゆっくりと動く、汗ばんだ二つの裸体、それを見つめる自分。その右手には禍々しいものが入った四角い硝子瓶が握られている。
そして……、格子の向こうのもうひとつの顔。
これらはいったいなにを意味するのか。
そして数日後、幼馴染みの亜紀の母親が、自分の夫が勤める病院の屋上から墜落死を遂げた。
凰介の母親と亜紀の母親、ふたりの死には果たして関係があるのか。
ときを同じくして、今度は亜紀の父親の水城徹が精神に異常をきたしはじめ……。
いつまでも「守るべき存在」ではいられない。
亜紀を、父を、救うために、凰介は立ち上がった。
『背の眼』『骸の爪』といったホラーと本格ミステリの融合を目指した作品の創作を作家活動の軸足として置きながらも、著者はもう片方の足で、こんなにも美しい絵を描いてくれました。
サスペンス本格としての出来は近年稀にみるものだと思います。
読書スピードが決して早いとはいえない僕ですが、珍しく1日で読了しちゃいましたからね。
通勤電車の往復と、会社の昼休み、そして夕食後のひとときを利用しての一気読み。とても幸せな読書体験でした。
物語の冒頭からして、すでになにか不穏な事件が起こりそうな雰囲気がむんむん漂ってきて、あっという間に物語に引き込まれました。
正直にいって、明るい話ではありません。それどころか、作品全体を通して常に黒雲が覆いかぶさっているような陰鬱としたムードが漂っています。
『背の眼』『骸の爪』の真備シリーズでは、おどろおどろしい雰囲気のなかにも、著者特有のユーモアがそこここに散在していましたが、今回の作品ではそういった演出もありません。
もう、容赦なしです(笑)
梅雨どきに、じめっとした空気のなかに何時間も放りだされるような、えもいえぬ不快感が体に張り付いて離れません。
でも面白いんですよねー。止まらないんですよねー。
なぜなら、著者は今回の作品で、物語の構成力や、文章力といった小説家としてのスキルが飛躍的にアップしているからだと思います。
本格ミステリの書き手としての実力は十分理解しているつもりでしたけど、小説家としては可もなく不可もなくだと思っていました。
それがこの作品を読んで、印象が変わりましたね。
「あれ、この人、こんなにうまかったっけ」と。
凰介と亜紀のすいかに関するエピソードなんか、ほんとにうまいなあと思いましたもん。これは今後も期待できそうですね。
さて、ミステリとしての本書ですが、今回もやってくれちゃいましたよ。伏線のセンスに定評のある著者ですから、なにか仕掛けてくるなという予想はしていたものの、まさかそうくるとは思ってもみませんでした。全編伏線のみで書かれたような『骸の爪』ほどではないものの、今回の作品も実に丁寧に考え抜かれた設計図のもとに組み立てられていることがわかります。
「ははーん。これは実はこういうことだな」という風に、読者に対して巧みに「見破った感」を与えてくるのですけど、著者は軽々とその裏をかいてきます。まったく油断も隙もあったもんじゃない(笑)
余談ですが主人公の親子の苗字が「我茂」というのですが、この苗字とよく似た音の苗字を持つ人物が出てくるミステリをどこかで読んだことがありませんか?
ムフフ、そうです。「あの作品」のことですよ。
そう考えると、「この作品」と、「あの作品」はどこか雰囲気が似ていると思いませんか?
ひょっとしてこれは、「この作品の作者」から「あの作品の作者」へ捧げられたオマージュ、もしくは叩きつけられた挑戦状なのではなかろうか……というのは、さすがに考えぎでしょうかね(笑)
テーマ:ミステリ - ジャンル:小説・文学
- 2006/11/14(火) 01:10:09|
- 道尾秀介
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| コメント:7
>mizuk@さん
そう、あれです。
あれにはまんまと騙されました。
ミステリ読みとして、まだすれてなかったんでしょうね(笑)
あ○こさんにはもっともっと小説を書いてほしいです。
サウンド・ノベルもいいけどさ(笑)
>trickさん
これでお互い残すは『向日葵の咲かない夏』だけになったね。
道尾秀介史上最凶傑作といわれる作品だけに、読むのがもったいないような気もするけど。
でも俺はやっぱり『骸の爪』が好きやなあ。
そうそう、この作品については、trickさんが言うように、騙しの方向性だけじゃなく、作品の雰囲気までもあれにそっくりやわ。
- 2006/11/17(金) 00:02:28 |
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- ヒサオ #wLMIWoss
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アレ・・・分りません。初心者なので勘弁して下さい・・・。
この本には正直参りました。うまかったな〜っていうのが心からの感想です。何かあるなとは思いながらも、「背の眼」や「骸の爪」のようなおどろおどろしさがなかったので、私にも読みやすい作品でした。こういう系、好きです。「向日葵の咲かない夏」のプログ、楽しみにしてます。
- 2006/11/19(日) 23:18:13 |
- URL |
- ぺこぽん #-
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>ぺこぽんさん
あの作品というのは、我孫子武丸さんの『殺戮にいたる病』というミステリのことです。
この作品はちょっとグロテスクな描写がけっこうあるので、ぺこぽんさんは苦手かも。
『葉桜の季節に君を想うということ』系の、最後にびっくりさせるトリックが仕掛けられてます。
トリックそのものはぜんぜん違うけど、『シャドウ』とちょっと作品世界の雰囲気が似てるのですよww
『向日葵の咲かない夏』読んだら感想書きますね。
- 2006/11/20(月) 00:11:33 |
- URL |
- ヒサオ #wLMIWoss
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先日「背の眼」を読みました^^
この方の本、すごく興味が持てましたので是非今後読んでみたいと思います^^。
「あれ」はやっぱりわかりませんがw
- 2006/11/30(木) 15:06:28 |
- URL |
- layla #-
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>laylaさん
おお、laylaさんも道尾デビューですね。『背の目』興味を持っていただいたみたいでよかった。
来年も三冊くらい本を出すらしいので、楽しみ♪
「あれ」は我孫子武丸さんの『殺戮に至る病』という作品のことです。
「かまいたちの夜」っていうサウンドノベルがあったでしょ。あれの脚本かいた作家さんの本ですね。
ちょっとえぐいシーンとかありますが、そういうの苦手じゃなければミステリとして傑作なので、ぜひ♪
- 2006/12/03(日) 14:34:47 |
- URL |
- ヒサオ #wLMIWoss
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とってもすてきなレビューなのでトラックバックさせていただくことに。読むのがすごく遅いわたしだけど、これは一日で読めちゃいました。もうすらすらと。こ〜んなに楽しいものを、しかも"ただ"で読ませていただい
- 2007/01/22(月) 18:41:02 |
- メモリーズ
東京創元社株式会社 東京創元社(かぶしきがいしゃ とうきょうそうげんしゃ)は、出版社。.wikilis{font-size:10px;color:#666666;}Quotation:Wikipedia- Article- History License:GFDL
- 2007/10/06(土) 10:14:34 |
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